ウクライナ西部リビウの競技場で、セルヒー・マカレビチ(28)は黙々とアーチェリーの弓を引いていた。ウクライナのナショナルチームのメンバーで、世界大会で2位の実績がある。
ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、練習環境は一変した。チームで集まってトレーニングすることはほとんどなくなった。今回のパリ五輪、自身は団体での出場がかなわず、ウクライナからは自分以外の男女1人ずつが個人戦で参加するのみとなった。
よく知るアーチェリーの選手仲間の1人は戦死した。1人は戦場で行方不明になった。チームメートだった親友は今、最前線で戦っている。
マカレビチには、国際大会で知り合ったロシア人選手たちがいた。
パリで「平和の祭典」が開幕したが、戦争はやむ気配はない。ウクライナでは、500以上のスポーツ施設が破壊され、487人以上のアスリートが殺された。戦時下の過酷な状況で生きるアスリートたちを追った。
ロシアの侵攻後、何が起きているのかを知らせなければと、スマホでメッセージや動画を送った。きっと、わかってくれる――。そんな期待があった。でも、返ってきた言葉は、まったく違った。
「フェイク動画」「単なる政…